2011年7月2日土曜日

36歳の秋、ノッポは地下鉄のホームで

深夜の地下鉄である。ホームには残業帰りサラリーマンちらほら。常識はずれのノッポ登場に眉根一つ動かさないのは、世慣れたもんなのか疲れすぎなのか。ノッポしばし無想。缶コーヒーでも飲むか。残業で酷使した194cmの肉体に、糖分と眠気覚まし成分でも流し込んでやろうかと思い立つ。流し込むったってあんた、俺の食道はちょっとマジで長いぜー、などと疲れ気味の思考を抱えつつ自動販売機へ。ゴトンと出たものをガチャッと拾い、プシュッと開けて、いざ。で、ドサッと小銭入れを取り落とす。言わないこっちゃないぜ、やっぱ俺も疲れてるよなー、しかも俺の場合、拾うまでの距離もこれまた遠いぜー、と拾いにかかる。その前に邪魔な缶コーヒーをどっかに、あ、ここ丁度いい。ちょっとここに置いて。


トン。深夜の地下鉄。躍動感ゼロの風景に、その音が転機となった。散漫だった各人の神経は、今や缶コーヒーに一直線。見間違いじゃないよな。あいつ今、普通に置いたよな。ていうか自販機の上に。確かめないと。置く瞬間はいまいちちゃんと見てなかったけど、缶コーヒーを取る時はきっちり確かめとかないと。静かなる緊張の中心には、小銭入れをごそごそしまい込むノッポサラリーマン。あいつを明日、昼休みの話題にしてやる。昨日すげーでけー奴がいてさ、そいつどこに缶コーヒー置いたと思う? 自販機の上! 上だぜ! どういう空間利用法かっつー話ですよ! あいつんち絶対冷蔵庫の上に本棚あるね。んでエアコンの上にはフィギュア飾って。5分も持てば上出来の話題。それを得んがため、決して直接は向けない視線が、ホームの冷えた空気を貫いた。

 そんなわけで私は缶コーヒーに手を伸ばすと見せて、フェイントで髪を掻き上げてみました。やるじゃねえかという反応が、3つくらいあったよな気がした深夜の地下鉄ホーム。

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